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【カンパーニュ】1週間かけて食べる

カンパーニュ1週間-1
買ってきたばかりのカンパーニュ

昔のヨーロッパで、パンは1週間かけて少しずつ食べていた。村に1カ所しかないパン焼き窯を各家庭が順番に使う。パンを焼くのは1週間に1度。カンパーニュのような大きく焼いた自然種のパンを1週間かけて少しずつ食べていくのが普通だった。

「家の近所においしいパン屋さんがなくて困っているんです」と相談されたことがある。週に1回程度、都心に出たときしか、おいしいパンは食べられないと。それなら、カンパーニュを買って1週間かけて食べればどうだろう。毎日変わっていくパンの味を楽しむなんておしゃれではないか。

カンパーニュ1週間-2
買ってきたばかりのカンパーニュ

日本のカンパーニュは本当に1週間持つのか実験してみる。買ってきたカンパーニュをビニール袋に入れて放置した。時計の針をはや回りさせいきなり5日目の印象から。表面はかさかさとしている。でもカビもなにもなく、依然として麦のいい香りがしている。口に入れたときは、味がないと思った。ところが、噛んで噛んで、ほとんどパンが溶けだし、もう喉の手前あたりにまで流れ去っていこうとしていたそのとき、やけに甘くなり、旨味も感じだした。それが酸味と混じりあってひじょうにまろやかな、驚くほどのおいしさを発していた。なんでこんなに時間がかかったのかといえば、水分が乏しいので、唾液がパンに滲みわたって香りの成分が口の中に出てきてやっと味がしだしたのだろう。昔の人は現代人ほどせかせかしていなくて、食事も少量のものをよく噛んで時間をかけて食べていたと思われる。だから、硬くて素朴なパンも楽しめたのではないか。

カンパーニュ1週間-3
5日目のカンパーニュ

5日たったカンパーニュを食べていると、急にチーズが食べたくなった。それで、冷蔵庫にあったカマンベールをのせて見るとおいしかった。そういえば、5日目のカンパーニュからは白カビチーズのような香りがかすかに漂っていた。

カンパーニュ1週間-4
5日目のカンパーニュにカマンベールをのせたところ。

6日目になってオフフレーバー(はっきり言えば好ましくない香り)が出はじめた。その日は30℃を超える夏日だったし、高温多湿の日本でヨーロッパよりパンが早く痛むのは避けられない。実験の結果から結論すると、カンパーニュを1週間かけて食べるなら、2/7を冷凍庫に入れ、残りの5/7を常温で保存するのがいいのではないか。ちなみにカンパーニュは真ん中から食べていくものだ。断面と断面をくっつけておけば、乾燥の進行が遅くなるからだ。

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