【バゲット】縦割り
バターを塗ってオーブンでかりっと焼いたタルティーヌ
バゲットに先っぽから齧りつくことを無上のよろこびとし、朝食のときは輪切りで食べることしかまったく思いついていなかった子供の頃の私であるが、長じて、バゲットを縦に割ることを知った日の衝撃はとにかくすごいものだった。
第一にその見かけである。そこには、私が予期すらしなっかた、あらたなバゲット像があった。いわゆる気泡ぼこぼこである。パン職人が、己が焼いたバゲットのできを見るとき、こうすると言われる。特に一本まるごと縦割りにしたとき、あのぼこぼこっぷりは本当に壮観である。いやーすごいすごい、よかったよかった、とわけもわからず思わず感心してしまう説得力にあふれているのだ。
第二に、おいしさ。最初に食べたとき、本当においしかった。切り方ひとつで味ってこんなに変わるものか、と半信半疑だったが、最初から2回目も、最初から3回目も、最初から…回目もおいしかったので、私の中で定説となった。バゲットだけではなく、食パンでも、カンパーニュやライ麦パンのような硬いパンでも本当にちがうということは、みなさんに知ってほしいのである。
バターとドラゴンフルーツのジャムを塗ったタルティーヌ
第三に、食べやすさ。これは三番目とも関係している。急に薄くなるので、とても噛み切りやすい。バゲットは硬くて食べにくいという印象が少しはやわらぐかもしれない。上の前歯はふさふさとやわらかい、白い中身が露出したところに着地、その勢いで下まで一気にいってしまえる厚さのため、意外にも噛み切りやすいのだ。
タルティーヌ・オ・ショコラ
第四に(こんなにいいところがあるなんて、書いてる私も少し驚いている)、タルティーヌにしやすいこと。日本人が食パンにいろいろのせて食べるみたいに、フランス人だって縦割りにして、丸いバゲットに平野を切り開き、そこに好きなものをのせる。チーズだったり、ハムだったり、焼いた野菜だったり。たとえば、フランス人のおやつの定番はタルティーヌ・オ・ショコラ。バゲットを縦割り、バターをたっぷり塗って、板チョコをのせて完成。その味とは…よく味を知ってるものばかりを組み合わせたのに、なんかフランスである。こんなに手早く、こんなにフランスっぽい味がするものを他に知らない。
コンビニで買ったバニラあずきアイスをのせたタルティーヌ