スペシャルコラム

COLUMS

【バゲット】先っぽからかじりつく

先っぽ-1
★写真はいろんな店のバゲットの先っぽ

 パンの食べ方を教授すると称する連載でいきなり「先っぽからかじりつく」というのはどうなんだろう。そんなの食べ方でもなんでもなく、単なるノーアイデアじゃないかと突っ込みが飛んで来そうだ。

これが立派なおいしい食べ方であると私が思う、そのルーツは幼児体験にある。幼い頃、朝食にバゲットが出る日は、母が街まで買物に行ったなど特別な日に限られた。バゲットを輪切りにしたものがトーストされて出されるのが普通で、私はそれ以外の食べ方など想像もできなかった。

先っぽ-2
★写真はいろんな店のバゲットの先っぽ

あるとき、母が家に抱えて帰ってきたすぐのバゲットを渡され、「これ食べてていいよ」と言われたので私は袋から取りだして、丸ごと齧りついた。立派なバゲットをひとりで独占し、思いのまま齧りつくことの幸福感たるや、すばらしいものであった。

単なる朝三暮四(もっと餌をくれとうるさい猿に、朝4つ夜3つ与えていたのを夜4つ朝3つにすると言ったらすごくよろこんだという例のアレ)にすぎない。けれど、プレゼンテーションを変えるだけで、同じ食べ物がおいしくなるという好例である。料理上手の人はこれがうまい人だとはいえないか。たとえば、肉を出すときに、塊で買ってきて、ローストビーフにして食卓の上で切り分けるとか。こうすれば、同じ肉でもぐっとありがたみが増すというものだ。ここにバゲットでもあれば、「今日はお母さんどうしたの!?」ぐらい家族から言われてもおかしくない。

先っぽ-3
★写真はいろんな店のバゲットの先っぽ

フランスに行くと、パン屋から出てきた人が、いきなり手にもっていたバゲットをむしゃむしゃやりだす場面に出くわす。バゲットの本場に住むフランス人だって、お行儀の悪さもものとせず行っているのだから、よほどおいしい食べ方なのである。

SPECIAL COLUMS

専門家によるスペシャルコラム